はじめに
「地獄を見たければ、アルコール依存症者のいる家庭を見よ」などという笑えない話があります。
これは、アルコール依存症は本人だけの病気ではなく、家族全体を巻き込んで苦しめるものであることを端的に表現しています。本人が病気から過去の酒害による回復しなければならないのは勿論ですが、実は家族もまた病気に巻き込まれて影響を受けてきました。そのために家族全体が病んだ関係になっているのです。本人が回復への道のりに入っても、家族が病んだままでは本人の回復が進まないばかりか逆戻りしてしまうことすらあります。家族もアルコール依存症を正しく理解し、その回復を支援しましょう。ともに病気の回復の道を歩み、明るい家庭をつくりましょう。
アルコール依存症の本人のプロフィール
今、あなたの家庭に住んでいるアルコール依存症者は
こんなことを言っていませんか?
- 「飲みたい、酔いたい、飲んで楽になりたい」
- 「俺の金だ、飲んで何が悪い」
- 「俺が悪いんじゃない、アイツが、お前が悪いんだ」
- 「酒で死ぬんだったら本望だ」
- 「酒だけが俺の生涯の友だ」
そして、こんな状態になっていませんか?
- 朝昼晩、時と場所・場合を考えないで酒を飲む。
- 頻繁に二日酔いになり会社を欠勤する。
- 日常が無頓着でものぐさになる
(風呂に入らない、洗顔が雑になる、服装が乱れがち)。
- 言行不一致。約束を守らない。嘘や弁解が多くなる。
- 疑り深くなり、嫉妬心が強くなる。
- 自分本位で周囲(家族・近所・会社)に迷惑をかける。
- 隠れて酒を飲む。問いただすと「飲んでない」といいはる。
- 家庭内暴力をふるう。
こうなると、あなた(家族)は
- 「酒さえやめてくれれば」と思う。と言う。
- 「酒が悪い」と思う。酒を隠したり捨てたりする。
- 「家族のことを考えてくれない」と恨む、非難する。
- 酔った本人の失敗の後始末(尻ぬぐい)をする。
- 経済的な生活苦の穴埋めに奔走する。
- 周囲(近所、会社など)の目を恐れて本人をかばう、嘘をつく。
そしてこんな状態になっていませんか?
- 本人のことを知られたら格好が悪い。素直に困っていることを話せる相手がいない。
- もしかしたら自分にも責任があるのではないか。こんなに尽くしているのに。
- 何を言っても、何をやっても、どんなに見張っていても無駄だ。もう絶望だ。
- これからどうしよう。こんな不幸な人間はいない、自分が可哀そうだ(自己憐憫)。
- 子供は、家庭の機能不全状態の影響をまともに受けて悩みます。
ああ、もう疲れた!
家庭がアルコール依存症維持連鎖!になっているのです
知らないうちにアルコール依存症者の飲酒を助長しているのです!
- あなたが本人のお酒を責めることが、さらなる飲酒の理由になっているのです。
- あなたが飲酒をやめさせようとすればするほど、逆効果で、本人は飲酒にはしるのです。
- あなたが失敗の尻ぬぐいをし、問題の解決をするかぎり、本人は自分の飲酒問題を認めようとしないのです。
- 酒をやめさせよう、行動を監視しよう、酒での失敗を防ごうと干渉しすぎることが、飲酒への欲求を強めるのです。
回復への道のり
1.まず、本人が断酒しましょう。
方法は2つしかありません。
- 医療機関(アルコール専門病院)で診察を受けるようすすめましょう。アルコール依存症と診断されたら、入院するか通院するか、医師と相談しましょう。通院をはじめてしばらくは家族も同行しましょう。
- 自助グループに連絡して酒害相談にのってもらいましょう。 自助グループ(断酒会)は酒をやめたいと思う人たちの集まりです。あなたと同じ立場の家族が参加しています。交流して相談していきましょう。
2.あなたも断酒の勉強をしましょう
- 病気としてのアルコール依存症を理解しましょう。
- 依存症者本人の気持ちを知りましょう。
- 家族が飲酒問題から受けた影響を理解しましょう。
- アルコール依存症維持連鎖を理解しましょう。
3.悪循環から抜け出しましょう(巻き込まれないようにしましょう)。
- 本人への干渉、コントロール、批判、攻撃をやめましょう。
- 監視せずに観察しましょう。距離をおいて、冷静になりましょう。
- 本人は苦しんでいる病人です。相応の信頼と尊敬を示しましょう。
- 本人に自分の言葉や行動に責任をもってもらい肩代わりしてはなりません。
断酒後にも出てくる家族問題
すぐに全てが解決するわけではありません。すぐに断酒が継続できるわけでもありません。
辛抱強く断酒例会に出席して、これまでの習慣、考え方、感じ方を少しづつ変えていく必要があります。
1.本人の抱える問題
- 家族の気持ちや事情が理解できていない。
- 無理に家族関係に加わって、家族の反発を招き、孤立する。
- 長い飲酒期間のブランクがあるため、親の役割が分らない。
- その結果「酒をやめてやっている、これ以上何を求めるんだ」と、断酒を免罪符にして居直ってしまう。
2.家族の抱える問題
- 過去の悔しさ、惨めさ、恨みが解消できず、嫌悪感・拒否感を抱く。
- 飲酒当時の家族の苦難への償いを限りなく求め、本人を窮地に追い込む。
- 過去の酒害による家庭の不幸にとらわれて、前向きな生き方ができない。
- このため、自己憐憫と被害者意識から脱却できない。
- 家庭の飲酒問題から受けた影響が子供に問題として表面化してくる。ACの問題など。
家族全体の回復に向かって
本人の回復
断酒をスタートとして、飲酒によって失った自分自身、人間関係を素直に認め、社会性の回復を図らなければなりません。
自助グループの中で、断酒を軸とした人間の成長に努めましょう。
回復とは断酒によりバランスの取れた生活をすることです。
自分自身を受け入れ、理解し、自分らしくあることを大切にしましょう。
夫として、親としての自分を振り返り自分の役割を果たしましょう。
家族個々の回復
飲酒に振り回された生活の苦しみを忘れることは難しいことです。
しかし、過去を変えることはできません。
被害者意識と自己憐憫はあなた自身の変化と成長を妨げます。
被害者意識も自己憐憫も結局は自己中心の産物なのです。
過去にとらわれて現在と未来を不幸にするのは惜しいことです。
アルコール問題に取り組む中で、自分を取り戻しましょう。
自分の感情、考え、都合などに眼を向け、大切にしましょう。
本人にもあなたにとっても、究極の目標は幸せになることです。
子供たちの願いは両親が仲良く、幸せであることです。
家族全体の回復
長年、飲酒問題で、互いに傷つけあってきました。
断酒への取り組みの中で、関係を修復する必要があります。
家庭の中に小さな民主主義を持ち込みましょう。
それは、家族全員が自由平等な家庭をつくることです。
互いに自分を表現し、理解し、受け入れ妥協点を探す作業が必要です。
家族のきずなを結び直し、家庭としてのまとまりをつくりましょう。
断酒会で本人も家族も体験談を聞き、語る中で相手を理解し受け入れます。
みんなたった1回きりの人生を生きています。お互いに大切にしましょう。