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1.断酒会と自殺問題の深い関係
(飲酒運転問題から自殺問題へ)

 最近、常習飲酒運転者問題の裏にアルコール依存症が隠れていることが指摘され、断酒会も社会的な要請に応えて、その問題解決に向けた協力活動に着手しています。
 これまでの断酒会の考え方では「酒を止めた者が飲酒運転するはずがない」わけ
で、対岸の火事と決め込んでもよいのですが、飲酒運転がもとで失職、ついで家族崩 壊というように社会問題化してくるとなると、社会貢献という観点からも真剣に取り
組まなければならなくなったのです。
 自殺問題についても、基本的な考え方は「酒を止めた者が自殺するはずがない」であり、自殺するにしても、それは断酒活動から脱落ないし脱落寸前の者ということでした。しかし、常習飲酒運転者問題と同じように考えてくると、断酒会も自殺問題を真剣に掘り下げて、対策を考える必要がでてきました。

(断酒会と自殺未遂の体験談)

 最近の断酒会では、自殺未遂者が結構いるわりにはあまり自殺に関する体験談は語 られません。ところが草創期まで遡ると、実に盛んに語られていたことが分かります。
 断酒会を創った松村春繁氏は3回にもわたる自殺未遂体験を語っています。
 その後、断酒会では自殺問題から関心が遠のいていきます。
 その理由は、草創・展開期と異なり、成熟期に入った断酒会活動の主体が会の運営となり、結果として、だんだん内向きになっていったことが考えられます。
 各地域での酒害者の置かれている悲惨な状況、アルコール依存症者の飲酒の果てに自殺があるという現実から目が遠のいて、それを断酒会で語らなければならないということをおざなりにしてしまったようです。
 しかし、実際にはアルコール依存症者と自殺の関係は、一旦断酒したからといって
縁が切れたわけではなく、再飲酒すれば、それは「慢性の自殺か自分で選んだ自殺か」に繋がってしまうのです。この体験談が断酒会の関心事から外れてはならないのです。

 
2.クロス・アディクションの恐ろしさ

 「依存症になった人間は次の依存症をつくりやすい」
 この言葉は断酒会では常識となっています。断酒はしたが、ギャンブルに嵌まる例が後を絶ちません。ギャンブルに嵌ると多重債務等の問題がついてきます。
 ここで怖いのは、本人が自殺するのはまだしも、共依存の妻が夫のギャンブルの結果の借金の返済をするため必死になって働き、ついには絶望して自殺に追い込まれるという事態が起きることです。もちろん、酒だけでも同じことは起きているわけですが、クロス・アディクションに陥れば、事態はより一層深刻になるということです。

 
3.アルコール依存症が自殺に至るメカニズム

 断酒会員の明確な自殺の例というのはあまり多くありません。しかし、それは自殺ということでは表面に出ていないだけで、実は幾多の様々な事例があります
  酒にまつわる心理的な葛藤、経済的な破綻、険悪な家庭関係などで逃げ場を失って自殺を選んだ人もいれば、酒の勢いを借りて突発的に死ぬ人もいます。後者のような場合は自殺か事故死かわかりません。警察は事故死としても、日常交際のある断酒会員は、それが自殺であることに気づいています。

  • ある飲酒運転事故死の場合ですが、断酒経験の長い会員が道路の安全地帯に激突死亡。警察は事故死としました。この会員は立派な行動で会員から尊敬されていましたが、再飲酒を繰り返すようになり、立ち直れず悩み、挙動がおかしくなっていました。
  • 突発的投身自殺の例ですが、ある依存症者が、突然、海に飛び込みました。溺死体からは多量のアルコールが検出されました。警察はこれも事故死としました。しかし、この人は自分の酒が原因となった家族問題で悩み、自殺を仄めかしていました。
  • 家族の幸せのためと、勝手に決めて自殺する例もあります。家族から「あんたがいる限り幸せになれない」となじられ、自殺しようとしたが死に切れず断酒会に入会する例もあります。ですから、首尾よく自殺をしてしまった人もいるでしょう。
  • アルコール依存症には嫉妬妄想に悩む人が多いとされています。 原因は、夫としての役割、親としての責任を果たせていないという自責感の裏返しです。酔いが醒めていく過程で自己嫌悪に陥り抑うつ状態になり、自暴自棄になって自殺するようです。
  • 大量の酒を飲んでいた人が、酒が切れて禁断症状を起こし、幻覚に誘われたり、襲われたりすることもあれば、楽になりたい一心で自殺することもあります。
  • アルコール依存症はうつ関連疾患です。断酒の初期に強いうつ状態になる人もいます。 今まで酒の力を借りてやってきたことが、酒が切れると何もできないことに気が付き無力感に襲われる結果です。断酒会では「落ち込みの激しい会員を励ましてはならない」と言っています。黙ってそばにいてやるのが一番なのです。「うつを励ます」ことは無力感を助長して自殺につながるケースがあるのです。
 
4.ACを襲う自殺の危険性
 ACの人と自殺の関連は非常に複雑で、依存症の親によって受けた傷が原因で自殺に繋がることもあるし、依存症の親が自殺したことで、心に闇を持つようにもなります。
 親のアルコールで始まって、摂食障害→うつ病→自殺という流れもあれば、摂食障害→薬物依存→自殺、摂食障害→ギャンブル依存→多重債務→自殺、というケースもあります。
 アルコール依存症の親を持つ子供達が、アルコール依存症になるケースが多いことはよく知られています。最近女性のアルコール依存症者が増えていますが、彼女たちはACであることが多く、その殆んどはアルコールの前に摂食障害になっています。
 断酒会での女性酒害者の体験談では自殺の話が自然に語られています。男性と比較して、飲酒時代に彼女達がいかに追い詰められていたかを示すものと言えます。
 自殺の原因を自殺直前の状態であるうつ症、薬物、多重債務と特定しないで、親のアルコールから始まる負の連鎖と考えると、自殺率1位のうつ症より、アルコールの流れの果てにある自殺の方がはるかに多いと考えられます。
 このような背景に鑑みて、断酒会ではアルコール問題からアルコール関連問題へと幅を広げた啓発活動を展開しようとしています。
 
5.語るは最高の自殺予防なり
 断酒会の例会原則に「酒害体験をありのままに語る」とあります。飲酒時代の自分の惨めで無残な過去を何度も通りなおすことで、自分と酒の関係が見え、二度と同じ過ちを繰り返さなくなるのです。「語るは最高の治療」が原則というより鉄則になっています。
 断酒会は三次予防の自助組織です。会員は再発防止のために語り続けています。
 失敗すれば、再び自殺の可能性に直面します。その意味で再発予防のために語り続けることは、同時に自殺予防でもあるのです。
 最近では、うつ症の人たちが「語るは最高の治療」を取り上げるようになりました。
 自殺願望の強かった人たちには「語るは最高の自殺予防」になっています。
 全国の自治体が自殺問題をテーマにしたシンポジウムを開催し、断酒会員の参加協力を呼びかけてきています。
 われわれ断酒会員が、社会に向かって自分の体験をありのままに語ることができれば、うつ症のようにアルコール依存症に対する社会の理解・共感が得られるのではないかと思います。そうすれば、地域の酒害者や家族が酒の問題と正面から向き合うようになるのではないでしょうか。

(全断連参与 小林哲夫氏の講演から抜粋編集いたしました。全文はTOPページ参考資料「アルコール依存症と自殺」をご覧ください。)
 

 

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